日本中央アジア学会会長よりご挨拶
宇山 智彦
2016年度より、新免康先生の後を引き継いで、日本中央アジア学会会長を務めることになりました。本会の原型は、1999年3月31日〜4月2日に新疆研究者が伊豆・松崎に集まって開いた研究会合宿「まつざきワークショップ」にあります。このワークショップは、第2回から旧ソ連側の中央アジア地域を研究する研究者も加わって毎年春に開催され、2004年3月の第6回まつざきワークショップで、日本中央アジア学会が正式に設立されました。2014年3月から江ノ島に会場を移しながら合宿形式を維持している年次大会の開催と、学術雑誌『日本中央アジア学会報』の発行が、本会の活動の二大中心です。まつざきワークショップ時代から17年にわたり活動を牽引し、多くの地道な仕事も担ってこられた新免先生の多大な貢献に、深く感謝申し上げます。
日本の中央アジア研究は、古代史・中世史の分野で明治時代の西域史研究に遡る長い伝統を持つと同時に、本会会員の過半数が携わる近現代中央アジアの研究も、日本と中央アジア諸国・諸地域の関係の発展と軌を一にしながら最近数十年間に急速に発展し、その成果を国内外に活発に発信してきました。中央アジアは、遊牧民と定住民、イスラーム文化と中国文化、ロシア文化などさまざまな人間集団や文化が接触し合ってきた地域ですが、本会もまた、東洋史(中国史・西アジア史・南アジア史)、ロシア・ソ連研究、政治学、国際関係学、経済学、文化人類学、地理学、環境学、文学、芸術学、教育学といった多様な分野で中央アジア研究に携わる人々の集まりです。狭義の中央アジアだけでなく、ヴォルガ・ウラル、コーカサス、アフガニスタンや、中国内地のムスリム地域などもカバーし、広く中央ユーラシア・内陸アジア地域を守備範囲としています。また、本会には外国人研究者・留学生も多く参加しています。このように、比較的小規模でありながら、極めて多様な研究者・学生が参加する開かれた組織であることは、この学会の顕著な特徴です。
中央アジア研究・中央ユーラシア研究は多面的でダイナミックな発展を遂げてきたとはいえ、手薄な部分がまだまだ多くあります。また、学術研究において起こりがちなことですが、分野ごと、研究対象とする国ごとに過度な専門分化が進んでしまう傾向もなくはありません。豊かな歴史と発展可能性を持つ中央アジアを研究する魅力をアピールして研究者を増やすと共に、研究者間の緊密な連携を維持し、学際的・総合的な研究のための環境を作ることが、本会の重要な使命だと考えています。
日本の中央アジア研究が日本社会の中で、また世界の中央アジア研究の中で存在感を維持・向上させるには、不断の努力が必要です。もとより、学会としてできることは限られていますが、実務家や他分野の研究者との交流、CESS
(Central Eurasian Studies Society)やESCAS (European Society for Central
Asian Studies)をはじめとする国際学会との交流、外国語の書籍・雑誌での研究成果発表の増大などを、直接・間接に促進していきたいと考えています。個人的には、私がInternational
Advisory BoardのメンバーになっているCentral Asian Survey誌やCentral Asian Affairs誌に、日本の中央アジア研究の成果がもっと多く掲載されるようになると嬉しいと思います。
合宿形式の大会が持つ和気藹々とした雰囲気を維持することも重要です。この和やかな輪を広げていけるよう、多くの新入会員を迎えることを望んでいますが、同時に、大会運営を支えている方々、特に若手研究者の労苦を忘れてはなりません。学会誌の編集や事務局の運営に携わる方々についても同様です。新しく参加する人、裏方として学会を支える人、研究成果を発表する人、すべてにとって居心地のよい学会であり続けたいと思います
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